陽気な花たちに招かれる。
テーマはRADIANT FLOWERSとある。RADIANT は〈光を放つ、輝く、晴れやかな、うれしそうな、にこやかな、輝いて、……〉とある。春を凝縮してぎゅっとオニギリにしたような単語だ。なんとこの子たちにピッタリの形容なんだろう。
春を感じて、もう浮き浮きが止まらない。vividな服に着替え、もうお喋りに夢中で、僕がじろじろ見ているのにも気がつかない。その昔南房総で花摘みした時の少し頼りなさげなポピーとはちがう。アネモネもグッとオシャレで凛としている。
ふだんは、いかにも着色したような濃い色の花より、さりげなく淡い野の花の色合いに惹かれることが多い。しかし、この人工的な風味が漂う花たちの賑やかな饗宴もいい。パーっと華やいだ姿にココロも踊る。
このお花屋さん、日比谷公園の端っこで日比谷通りに面している。控えめの箱型は遠目からは小さな倉庫みたいな感じもする。ベージュの壁が初春の陽射しに品よく映える。この改築した日比谷花壇の「フラワーショップH」で、建築家の乾久美子氏は、2010年日本建築士会連合会賞優秀賞や2010年グッドデザイン金賞、2011年度JIA新人賞などを受賞した。
公園の中に入って見ると、象さんの親子がお散歩しているように方形が2つ並び、高い天井と開口部の窓が印象的だ。西洋的だが、女性的で優しく林に佇んでいる。旧家の縁側の掃き出し窓のように、あの大きな窓は内と外を曖昧に隔てている。そしてやや地味めのベージュの外壁は御影石を貼り、道の向こう側に居並ぶ堅牢な石貼りのビル群の風景に馴染む。
この後乾氏は精力的に作品をつくっていく。ルイヴィトンやディオールの店舗のファサード(外観)をはじめとして学校や美術館も手がける。2015年には東日本大震災で損傷を受けた宮城県の七ヶ浜中学校の再建を担う。
もう一週間も経てば薄桃色が街を覆う。春の花たちは閉塞した街の空気に、僕たちのココロに風穴を開けてくれる。
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