docomoやキャノンEOS KissのCMで耳にしたことがある「Kiss Me」
1990年代末、学校一冴えない女子テイラーがプロムクィーンに変貌するシンデレラストーリーの青春映画「She’s All That」に使われて、この曲がいっきに世界に躍り出た。
グループの名は〈Sixpence None the Richer(シックスペンス・ノン・ザ・リッチャー)〉。もともとはテキサス生まれの素朴なバンドだ。
舌足らずで愛らしいリー・ナッシュの「kiss me ♪ kiss me ♫ ‥‥」が甘く軽快に澄み渡る。
〈none the richer 〉は直訳すると〈誰も得してはいない〉となる。この〈長すぎる〉バンド名は、「ナルニア国物語」の作者であり、キリスト教の伝道者でもあるC・S・Lewisの「キリスト教の精髄(Mere Christianity)」の一節から名付けたという。
「小さな子供が、父親の誕生日プレゼントを買うために、父親に6ペンスのお金を求める。父親は子供にお金を与えて、そのプレゼントに喜ぶが、それによって父親は6ペンス分の得をしたわけではない。」というくだりだ。
〈神のためにこんなことをしたとか、神に何かを捧げるとしても、それを達成する能力や捧げるもの全てが神の所有に属するので、結局神に何一つ与えることはできない〉という論理を父と子の話に例えて紹介している。キリスト教徒の信仰についてルイスはそう語る。
敬虔なクリスチャンであるメンバーが、これをバンド名にした理由まではわからないが、もしかすると音楽活動の信念のようなものを名前に織り込んだのかもしれない。
ところで6ペンス硬貨は、英国では、使いやすく、人々から長い間愛された硬貨である。12進数と20進数を組み合わせたイギリス独特の通貨単位から均一な10進数に統一されてから発行が止まった。1551年チューダ王朝のエドワード6世~1967年現在の女王ウィンザー王朝エリザベス2世までの416年間、22人の王の顔絵を浮き彫りとした異なるデザインがある。
例えば1890年(明治23年)の日本銀行統計局の為替データによると、1ペンスは約60円ほどで、これは葡萄パン1個分のようである。すると6ペンスは約360円ほどだ。
1919年に出版された英国のサマセット•モームの長編小説「月と6ペンス」という有名なタイトルは、1959年の初版の訳者中野好夫氏によれば〈月〉は夢を、〈六ペンス〉は現実という2つの丸を対比させたという。6ペンスは日常生活を象徴する。
そんな6ペンス硬貨はまた〈マザーグース〉ともつながりが深い。数ある〈マザーグース〉の中で今でもよく愛唱されている〈Sing a song of sixpence〉そしてマザーグースに由来するとされる〈サムシング フォー〉の一遍。
なにかひとつ古いもの、なにかひとつ新しいもの
(Something old, something new,)
なにかひとつ借りたもの、なにかひとつ青いもの
(something borrowed, something blue,)
そして靴の中には6ペンス銀貨を
(and a sixpence in her shoe.)
ここから結婚式の幸福なジンクスが生まれる。
それは〈花嫁の左靴の中に6ペンス銀貨を入れて結婚式を挙げると豊かで幸せな結婚生活を送ることができる〉というもの。
昨日はスーパームーンの月食。〈夢〉を見たかったが、雲に隠れた。次は12年後と聞く。
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