ふれあい広場の一画に何やら親子が集まっている。10匹ほどが箱に入った天竺ネズミを撫でたり、抱っこしたり……。ぷくぷくしたネズミたちがそろってこちらにおしりを向けて、ブルブル体をゆすっている仕草がとてもユニークで愛らしい。フレンチカンカンのお稽古といったところか。はじめはこわごわだったうちの子もすぐに慣れて、自慢げに抱っこしていた。
十数年前の井の頭動物園(正確には、井の頭自然文化園)の遠い記憶を巡らす。あの〈象の花子〉で有名な動物園に子どもを連れて行ったときのこと。
そこから程なく歩き、ふと道の脇の檻を見る。「ん?」檻の中に鏡。今は大きなカーブミラーのようだが、当時そんな記憶はない。さほど大きくない平面鏡だった気もする。まあ鏡は鏡だ。「ん?」と近寄ると、どうやら動物の姿はない。もちろん鏡には自分が映る。
横の表示板が目に入る。
「ヒト 学名:HOMO-SAPIENS 英名:Human 分布:地球上のいたるところ 分類:霊長目 ヒト科」
「特徴 ・好奇心が強い ・あつかい方によっては大変危険 ・鏡の中のあなた」
「やられた!」
気の利いたユーモアに思わず笑みが溢れる。
そして、ふと考えさせられる。
ヒトも同じ〈動物〉の一種だということ。特別な存在でない、地球上のイキモノだということ。
あの檻の中に僕がいて、家族連れの動物たち、例えばライオンの一家が動物園にやって来る。子ライオンが、足を止めて〈ヒト〉という種の檻を覗き込む。「危険だからあまり近づかないで!」とおかあさんライオンが制止する。妄想する。いつの間にか視座が転換している。
動物園で動物を観る。動物は人間を観ている。
森で動物を見る。彼らは人間を凝視する。
先月刊行された〈もりはみている〉(福音館書店刊 大竹英洋 写真 著)を開く。動物がじっと僕を、こちらを見ている。森の中に入ってきた見たことのないシンガオのよそ者を食い入るように。彼らの棲む世界に立ち入る。礼が必要だ。
この幼児用の絵本を読んだ子どもたち、動物たちの視線に彼らの霊感はどう共鳴するのか。興味がわく。
記事にコメントする