僕と世界の方程式 (原題 x+y )
幼い自閉症のネイサンは、彼を認め、受け入れた最愛の父を事故で失う。9歳の時である。
外の世界との交流を頑なに拒む彼は、やがて天性の数学の才能が開花し、数学オリンピックの英国代表となる。あまりにも辛い体験で固く閉ざした心はいっこうに開くことはない。もちろん彼から数学をとると、ただの「変人」だ。この数学オリンピックという競技は国の威信をかけたチーム競争でもある。これを通じて、彼は初めて他者の存在を理解し、人を愛おしく思う気持ちを知る。
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追いかけて来た母は、街なかの飲茶の店で、ケンブリッジ大学を走り去ったネイサンを見つける。
「公式を見つけたけど理解できなかった。」 彼が言うのは、ネットで見つけた愛の方程式のこ とである。いちおう記しておこう。笑
「理解できた人はいないわよ。」
「チャンメイと一緒にいると‥」
「頭がいつもと違う風に動く 体もへんな感じだ。」
「なぜそうなるのかわからない」
母は首を斜めにしたまま、観音様のように柔和な眼差しで ネイサンを見つめ続けている。
彼女は言う。
「誰かがあなたを愛している時 その人は、あなたの中に何かを見てる」
「その人にとって価値のある何かよ あなたの価値よ」
「でもつらいこともある 気持ちを伝えてくれなかったら不公平に感じる」
「それから愛する相手が人生から引き算されることも 自分の価値が前より減ったように感じる」 「意味わかる?」
「なぜパパはいないの 理解できないよ」
「パパはよく笑わせてくれた。 鼻にポテトを詰めたり‥」 字幕翻訳 横井和子
母ジュリーが鼻にポテトをつめる
母と握手することも拒んでいたネイサンは初めて泣き 抱擁し合う‥。
二人は帰路につくチャンメイを 駅まで追いかけていく‥‥。y
泣ける、泣ける。
彼を責めることなく、生きる上で大切なことを共に一つ一つ確認していく。
かくもスゴイおふくろだ。
人との競争より大切なものを、こうして伝える機会を待っていた。ずっと見守っていた。無償の愛である。
今年の「僕と魔法の子供達」や古くは「レインマン」。韓流のTVドラマ「グッドドクター」 など、自閉症などの発達障害はよく題材になる。
何が「ふつう」かを私たちに問うのに格好だからだ。
「アルジャーノンに花束」は、若い頃、舞台を何度も観た。お馬鹿でお人好しゆえ、皆んなから愛される主人公が知能が急に上がる新薬の開発の治験者になる。知能と情緒の発達のバランスが崩れ、人々の打算や恋愛に悩み葛藤する。やがて実験用のマウスである仲良しのアルジャーノンのように‥‥。
頭がいいって何なのか、人の幸せって何なのか考えさせられる作品であった。
この 《僕と世界の方程式 》は珠玉の短編を読んだ感じがする。よくできた脚本だ。数学青年(誰が?笑)としては、数学オリンピックに参加している気にもなれる。AIと人間の違いやIQとEQの差も考えさせられる。
でも、受験生の母に(こっそり)観てほしい作品だ。笑
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