私立中高一貫のA女子高校の ある英語の授業では、春、夏、冬の各休み中に、洋画を字幕で観るという課題がある。わりと伝統になっている課題のようである。もちろん英語の授業の課題だから、日本語吹き替えはだめだ。TSU○○YAでDVDをレンタルしたり、a○azon primeとかでストリーミングしたりで、2時間程度、ポテトチップスでもモグモグしながら、いやパリパリしながらテレビの前でくつろいでいればいい、という楽チン(?)な課題である。高1の春休みが「素晴らしき哉人生」 、高2の夏休みが「ローマの休日」、冬が「エデンの東」そして春休みはアニメの「ティンカーベル 」と「キューティ・ブロンド」と「小さな命が呼ぶとき」から一つを選べる。(もちろん原題と邦題の両方が併記されている。)
この春休み課題のプリントにある紹介欄には、法学系や海外の大学に進みたい生徒は「キューティー‥」,医歯薬系の進路を考える生徒には「小さな‥‥」そして進路に迷っている君には「ティンカーベル」などと詳しく紹介もされていて、進路の選択と結びつけたようだ。なかなか芸が細かい。例えば「ティンカーベル」にはこう記されている。以下抜粋
《自分に与えられた才能に嫌気がさした妖精ティンカー・ベルが、別の才能を探しに行くが、失敗ばかり。人とのかかわりの 中で、徐々に自分の良さに気づいていくティンカーベル。アニメ映画ですが、考えながら見れば大変奥深いメッセージがあります。進路に悩み、自分をみつめ直したい時に見てほしい一本です。》
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課題をやった というか、寝ながらビデオを観た(笑)生徒に聞いてみると、「エデンの東」がなかなか良かったという。「エデンの東」か‥‥、僕の時代は必ず通った映画の一つである。繊細で大人と子どもの端境を行ったり来たりするジェームスディーンは、避けて通れないキャラクターだった。赤いスイングトップになめらかな櫛目のブロンドはどうしても日本人が真似できないあっちの世界の野郎だった。しかし、「ジャイアンツ」「理由なき反抗‥‥この成り上がりの青年が演じるテーマは、国境を超えて普遍的なもので、若かりし心を共振させるものだったのを思い出す。監督のエリア・カザンは様々な文学作品を映画化した。この「エデンの東」もスタインベックの原作を映像に映し出した。親子を中心に兄弟・男女の愛と憎しみが相克する感情が描かれる。音楽も心に残る。
複雑な感情が織り成す、人間の奥底をえぐるような作品をJKが「よかった」という。
なんと革命的なことであろう。(失礼)
課題でなくては出会うことがない名作を観ることによって、時代や国を越えて、様々な壁に当たり、真っ当に悩み、考える人がいることを知る。分厚い文学書ではなく、ソファで寝転びながら‥‥、心が膨らんでいく。あまり語学の勉強にはなっていないようではあるが(笑) goodな課題だと思う。「感じる」宿題といえる。
私学ならではだ。大学進学に矮小化してはいけない。それぞれの私学はそれぞれの個性があるはずだ。人生の中で最も みずみずしい時期に、教師が、自分の教育観で教材をつくり、課題を与える。生徒の中の様々な新芽に 水と養分を注ぐ。そんな教師がいることで、何かほっとする気持ちになる。
5年生の生徒が、ロボットの折り紙を見せてくれた。大きな1枚の紙から作ったという。
「僕は折り紙をやると2時間くらいすぐに過ぎちゃう。大好きなんだ。」
「開成中学とか、早稲田中学には〈折り紙部〉とか〈折り紙研究会〉とかあるよ。」と私。
学校はオモシロイ
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