東京六大学野球
ー東大一勝ならず

   2019年5月26日(日) 北海道上空に暖気が流れ込んだ影響で、北海道サロマで39℃、東京も最高気温32.6℃と、統計開始以来5月の最高気温の記録を更新した。初夏というより盛夏というのがふさわしい。庭先のバラの花たちも、あまりの暑さにヘトヘトだ。

  折しもここ神宮球場では東京六大学野球が行われている。94年目となるこの大会、元号が令和に変わって初めての春季リーグ戦。この日の試合は第7週目、あとは早慶戦の最終週のみを残す、まさに大詰めである。

 立教大学対東京大学 リツダイとトウダイ。今季、東大はここまで勝ち点はない。東大が15年ぶりに一勝をあげたのは、まだ記憶に新しい。一昨年(2017年)の秋季リーグで、法政大に連勝した。令和初のリーグ最終戦で一勝をもぎ取れるか、再び悲願の一勝の再現か。5回終了時点で2-1で東大リード、私はそれまでバックネット裏でビール片手にのんきに観戦していたが、 もう一度、応援席券を買って、一塁側の東大の応援席に繰り出すことにした。悲願の一勝を応援したくなったのだ。

  この応援席は最も安く500円、だが、もちろんこの炎天下の下、応援団の指示に従って、休みなく応援し続けることを担う席だ。私が学生の頃は、学生席が応援する席だったが、今は応援したい人は誰でもこの応援席で応援できる。通路をわたり、入り口3の階段を上がる、東大の応援グッズを渡されると、「頑張るぞ!」という気持ちが湧いてくる。「よっしゃ 応援したるでー」となる。まあ、「何が応援だ、中盤の都合がいいところから来やがって」と頭の中で呟きが聞こえる。いやその通り ,「でも応援したくなったんだから構わんだろ。」と開き直る(笑) 。

  階段の下や通路に応援団の学ラン組やチアの子が数名、ぐったり放心して休んでいる。扇いだり、 水を飲ませたり、熱を溜め過ぎた身体を隣について別の部員たちが介抱する。この暑さだ、たまったもんじゃない。熱中症で参っているのだ。そんな野戦病院のような光景をやり過ごすとパッと視界がひらけ、グラウンドが 目に映る。アンツーカの上は、はたまた蜃気楼の幻か、それとも現実か。

  目の前の演台では、声を枯らした応援団長の悲痛なほどに張り上げたしゃがれ声が響き、休みなく勇ましい振りが続いている。合間に、前に置き並ぶ、水が入ったたくさんのバケツの一つを取り、学ランが頭から水をかぶる。そして団員たちは縦横無尽に席間を駆け走り、観客を鼓舞する。隣に整列している吹奏楽団もみな体が浮き上がる勢いで渾身の演奏を続ける。チアリーダーたちも笑顔が硬直するくらいひたむきにチャンスパターンを踊り続け、スタンツも観せる。一体となっている応援席、興奮の坩堝(るつぼ)とは此処のことだ。

  結局、6回に同点に追いつかれ、8,9回で駄目押しの2点で引き離され、4-2で、東大の悲願の一勝は叶わなかった。

IMG_0044  静謐の中に団長の一つの肉声の音階だけが高らかに空気を震わせる。エールの交換の時には、後ろ手に組んだチアリーダーたち、粛然と立教スタンドを見つめるその目に涙が溢れる。惜しくも叶わなかった悔しさゆえであろうか。青空に校章を染め抜いた淡青旗が悠然となびいている。
団長はこちらを向き直り、「学生注目」で観客たちに謝意伝える。「われわれがーーかんぶになってーーしんにゅうぶいんがーーーだれもはいらなかったーーーー、そうぶいらいーーはじめてーーのことだーー まことにーーーふがいなーーい」「そうだーー!」と私も含め観客が応じる。「そしてーーーこんかいーーーわがーーやきゅうーぶにーーーいっしょーーーーう させーーることができなかったーーーーーふがいなーーい」「そうだー〜!」

  この日は小中学校で運動会のところも多い。熱中症によるダメージを回避するために競技の時間を短くし、怪我を避けるために組体操なども安全にまとめる。運動会自体がちぢんでいるのだ。暑いから青山あたりの涼しいカフェで‥この神宮の応援席には、それとは真逆の濃密なhot spotがある。ほとばしる汗、そして涙の、熱い運動会が開かれていた。時代から取り残された、いやだいじに残した何かがある。それは技術や方法の次元ではなく空気の濃さの問題のようだ。

 ありがとう。感動を頂きました。秋も頑張れ! フレーー!フレーー!

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