有楽町から新橋に続く間で、JRと首都高速が並走する場所がある。首都高の高架に沿って銀座コリドー街が続く。これは昭和31年外堀を埋め立てて造られた首都高の完成にともなってできた。日比谷OKUROJIは平行に走るJR線の高架下の空間に、今年新たに誕生した。歴史ある煉瓦造りのアーチが特徴的な約300m続く商業施設だ。
この半地下空間には、時代が違って造られたJ R(国鉄)の3つの線の架設にともなってできた痕跡がある。古い温泉旅館の建て増しに次ぐ建て増しみたいな感じだ。一番西側(日比谷側)は、ちょうど100年前、ベルリンの煉瓦アーチをモデルに造られた日本初の鉄道高架橋で、現在は山手線と京浜東北線が上を走る。真ん中の通路上の白いアーチが波のように連続しているのは、1942年(昭和17年)に使い始めた鉄筋コンクリート造の東海道線の高架橋、その横の東側(銀座側)は1964年(昭和39年)に使用を始めた東海道新幹線の高架橋が隣接する。OKUROJI の空間はそれらの橋脚などの構造が賑やかに剥き出してあるのがオモシロイのだ。地層を見るように、都市の高度成長の歴史を語っている。
さて、日比谷OKUROJIの「酒肴日和アテニヨル」で昼ご飯とする。OKUROJI開業してまだ数日。物見遊山の客も増えている感じだ。
「すごい鯖」が目の前のモダンな炉の上で、炭火で焼かれる。薄暗い和風の炉端焼屋でなく、イタリアンのオープンな厨房のようで洒落た雰囲気だ。黒装束で黒いバンダナを巻いた2、3人の焼き師が、黙々と作業をしている。
たしかに凄く旨い。この「凄い鯖」は、利根川の河口をはさんで千葉県の銚子の対岸、茨城県波崎にある45年続く干物屋の《越田商店》の鯖の干物のこと。魚卸業を主宰する一ファンが名付けたという。数年前からこのブランド鯖が噂が噂を呼ぶようになった。
ノルウェー産の油ののった鯖を三枚におろし、昔から付け足してきた秘伝のつけ汁につけて水洗いした後、セロハンに包んで扇風機の風で干す。天日干しではないいわゆる文化干しだ。干物といっても《開き》ではなく半生の半身の状態だ。添加物を一切使わず、一つ一つの工程を妥協しないやり方でずっと続けてきた。
昔の安宿の朝食で出されるボソボソの骨張った干物感の微塵もない。それどころかふつうの塩焼きよりもずっとジューシーでふっくらしている。干物だと言われないとわからない。もちろん味も凝縮されて言うことないのだ。これがつけ汁のマジックといえる。科学的には、つけ汁の塩分が魚のタンパク質ミオシンに作用し、筋繊維の結びつきを強めることから弾力性が生まれ、それと同時に強く結合した筋繊維により水分の保水性も高まり加熱したときに水分を出しにくくするようである。鯖がよりジューシーに、旨味が詰まって生まれ変わった。これが《凄い鯖》だ。そしてそれは、科学的知識でなく、先人の試行錯誤と知恵の結晶なのだ。
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