50年目の三島由紀夫
ー「三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実」

 その昔、東大の駒場祭に行った。〇〇史研究会とかなんとかという名称のサークルが主催する「全共闘OB諸氏との対話ー学生運動とは何だったのか」みたいな企画を覗きに行った。前もって知っていて出かけたのか、当日たまたま校内の貼り紙を見かけて引き寄せられたのかは覚えていない。

 いわゆる全共闘世代は、僕の歳の離れた兄貴分といったところで、背中を見て育ったとはやや大袈裟だが、影響を受けたことは確かである。僕にとって、興味をもってじーっと凝視していた対象だった。飲み屋に行くと武勇伝を語る革命家気取りのアンちゃんもいたし、周りにはムショに入ったというセクトのリーダーもいた。ノンポリを通した研究者のたまごも、東大全共闘の議長で東大を首席で卒業したとかのカリスマ予備校教師もいた。日本を変えられると信じたエネルギー体だった彼らの高揚感そして挫折感、観察のテーマはそんなところだったと思う。

 きっと企画倒れに終わる、そんな匂いがして面白そうだと思った。企画倒れというのは、主催者の筋書き通りにはいかず、どうしょうもなくつまらないか、大盛り上がりで楽しめるかのどちらかということだ。オモロいものを嗅ぎとる嗅覚は鋭い方と自負している。(笑)

 座っていると、学生に混じって、赤ん坊をベビーカーにのせて夫婦で入ってきたオッチャンやら、教授らしき白髪のおじいちゃんもいる。〈きっと当時、あれは活動家であっちは大学(体制)側だったんだろう〉と勝手に役どころを決める。

 開始時間を過ぎてしばらくすると、きれいとはいえない教室のガシャガシャした雰囲気の中、真面目そうな詰襟姿の学生が会の始まりをコールする。「この平和な時代、僕たちは今後、社会に対してどう問題意識をもてばいいのか アー、そのへんのところを学生運動を経験した、あー、卒業生の先輩方に、エーと、」

「そんなの自分で考えろよ!」早くも鋭い野次の一撃が飛ぶ。

学生運動の後、大学に戻って働いた助手が当時の自分の経験や感情を話す。「結局テンコー(転向)だろ!」「そう言うのであれば、どうぞ勝手に。」

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面白いトークライブになった。このリアリティー感がいい。

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 伝説の駒場900番教室。1969513日 

 三島由紀夫は東大全共闘の学生と討論した。彼の一挙手一投足、そして発する言語をひと言ものがさず摑もうと聴衆約1000人が集う。この年の1月に安田講堂が陥落し、学生運動は意気消沈し、閉塞した空気が覆う。この日、三島は腹にサラシを巻いて臨んだともいう。天皇を崇敬する三島と天皇制を否定する左翼思想、正反対のイデオロギーが真っ向勝負する。二者に共通するのは革命への使命感と熱情である。

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 自分の後輩たちとていねいに論理的に話を展開する三島、時に言葉の矢が飛び交う。魂をかけて打ち放した矢だ。終始ある種の緊張感に包まれているものの、嬉しそうに議論をしている感じが不思議と印象的だ。世代を超えて真摯に言葉だけで向かい合う姿勢は見ていても気持ちがいい。

三島は最後に言った。 「諸君の熱情は信じる」と。

(三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実 2020年3月上映)

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