JR十条駅のすぐ脇の小さなビルに「カフェメソポタミア」がある。
クルドの家庭料理が食べられる珍しい食堂だ
クルドといえば、2018年にノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラドさんが記憶に新しい。彼女はイラク北部の山岳地帯のヤジディ教徒の村に生まれたクルド人である。ヤジディ教はイスラム教とは異なる民族宗教で、クルド人の中でも宗教的には少数派だ。サダムフセイン時代の弾圧に加えて、「邪教」としてイスラム過激派の憎悪のマトにもなった受難の部族である。村を侵略したISの殺戮を目の当たりにし、自ら日常的な拘束と暴力を受けたムラドさんは、奇跡的にクルド人の自治区に逃れた。その自分の凄惨な過去を世間に晒し、性暴力の根絶そして女性の尊厳と人権を訴えた。
映画「バハールの涙」(原題LES FILLES DU SOLEIL太陽の女性)も時期を同じくして上映された。ISLに勇猛果敢に立ち向かうバハール率いるクルドの女性戦士の部隊が描かれる。狡く弱い男、残虐で愚かな男どもに相対する女たちの強く美しい姿と魂が女性監督らしい目線で貫かれる。
総人口2500万人ともいわれる〈祖国なき最大の民〉のクルド人。第一次世界大戦でオスマン•トルコ帝国が敗れた後、戦勝国の英仏などによって民族の運命を翻弄され、居住地(クルディスタン)がトルコ、イラク、イラン、シリアに分散し、少数民族として統治されることになる。その後も統治国や、近隣諸国の利害や対立、そして大国の思惑に翻弄され、自治独立のエネルギーやチャンスを奪われてきた。〈山の他に友はなし〉繰り返し利用されては見捨てられて来たクルド人の嘆きだ。
ここ十年、埼玉県の蕨市や川口市周辺にクルド人が集まり、約1200人ほどが暮らすコミュニティになっていると聞く。〈クルディスタン〉と蕨をかけ合わせて、〈ワラビスタン〉の呼称もあるようだ。彼らは難民認定を申請しているトルコ出身のクルド人だ。トルコは以前より自国のクルド人に厳しい同化政策をとってきた。彼らは迫害と訴え、送還は人権を蹂躙すると主張する一方で、法務省や入管は「難民鎖国」といわれるように世界から批判されるほど難民の認定には厳しい。
特に友好関係にあるトルコについて日本政府は「迫害はない」とする立場をとる。観光ビザで来日し、難民申請を繰り返しながら、一時的な在留資格を得て就労したり、不法労働をして生計を維持しているのが現実だ。そしてトルコは昨年、内戦で混乱する隣国のシリアに侵攻し、北部のクルド人の村を攻撃し、シリアのクルドもまた多くが難民となる。
さてランチ ランチ
急な階段をひとしきりあがると、エキゾチックなカフェがある。店で調理したおばさまはまったく日本語も英語もできないようで、ノートパソコンを使っていた若い髭の男性と片言の英語で挨拶をする。たまたまその日の当番で駆り出されたのかも知れないが、日本人とのコミュニケーションはあまり無いように感じる。 でもフレンドリーに話をしてくれた。
100円高級なBランチセットのバージンジャーンを注文する。
〈茄子の挽肉包み グルグルと挽肉団子包み揚げ ピクルス付き〉
遊牧民や山岳地帯の民族料理って、何かまったく違う食べ物ではないかと不安と期待があった。「茄子の挽肉包み?」家でもどこかでもわりとよく食べてきた取り合わせだが、クルドの人々も同じ組合せを食べていた感がおもしろい。それと隣はピロシキじゃないか。チャイも然り、その昔、食文化が中東でどう交差したんだろうかと考えを巡らしながら、あっという間に完食だ。
その一日は、マトンの臭みが口から消えなかった。
イスラム教だから牛、羊は食べるが、クルド人は羊を食べることが多いようだ。
ゲップをしても、かなり匂うので、営業マンは注意が必要かも知れない。笑
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