ことばの魔法ーその1

 スティックがガリガリに細く削れて、ささくれだっている。いつ折れて先っぽが飛んで行くのかと不安になるくらい。もう替えるべきタイミングだと思いながらも、あいかわらず今日も使っている。

 〇〇の手習いよりは少しばかり前だが、ドラムを習い始めてかれこれ2年が経つ。ボチボチ時間を見つけてレッスンするのだが、おさらいなどめったにしないものだから、たぶんドラムに入れ込んだ高校生と比べると、習熟のスピードも深さもせいぜい120くらいものだろう。いや桁が違うか。笑 いや、それは練習時間がどうこうより、生まれもったセンスのなさが原因かも知れないし、加齢による反射神経の衰弱かもしれぬ。認めたくはないが‥‥。(自分の数学の授業になると「復習しておけ」というくせに、ずいぶんいい加減なものだ。

 いずれにせよ、ふだん教える仕事をしていると、反対に《教わる》ことは新鮮だ。些細なことでほめられると(勝手にそう思っているだけかも知れないが 笑)天にも昇る心地になる。やっぱりほめなければね。

 ある日、ドラムの先生がぼくのそのスティックを見て、「ずいぶん育ちましたね」と言った。(たぶん)ニコニコ、目を細めながら‥‥。ぼくは,そのうち「もう替え時ですね」とか「折れたらあぶないですね」とか言われるだろうと思っていたが、「育ちましたね」には驚いた。

 ひと言が、目の前のスティックごと空間を豊かにくるみこむ。

 もし先が折れたら、それは、〈立派に育って、独立して、旅立った〉ってことかなぁ 笑

その痩せっぽっちのスティックに語りかける。「よく育ったなぁ,だってよ」

ことばの魔法‥‥あったか〜い気分が続く。

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