池袋芸術劇場企画の「VS」シリーズの第4段
赤コーナー〜世界を駆け抜ける人気ジャズピアニスト 山中千尋
青コーナー〜ポピュラー界に名曲を輩出してきた俊英 妹尾武
《二人が繰り広げる熱狂に刮目!》というふれこみだ。
小気味のよいコンサートだった。桐朋音大の同窓生で生年月日も同じ、フィールドは異なるが音楽界で活躍する二人である。妹尾はゴスペラーズの曲で有名なドラマの挿入歌『永遠に』から二十年、一方の山中もデビューから二十年のダブルアニバーサリーになる。僕は今でもときどき休日の朝に家で彼女の『Beverly』を聴く。よりブラックなjazzを奏でる大西順子、斬新な上原ひとみもバークレー音楽大学出身の日本が誇る女流ジャズピアニストだが、山中千尋はとびきり優秀だったようで、卒業後ずっと一流のアーティストたちと演奏し、走り続けてきた。
梅雨にちなんで千尋が『6月の雨』を弾く。妹尾はガトー・バルビエリの『ラストタンゴインパリ』を彷彿とさせるような、とてもリリカルでロマンチックな曲と讃えるが、千尋は「ニューヨークのコンビニで急に雨が降り、傘なんて売っていないので、みんなコンビニ袋をほっかむりして歩いている光景を見てふと曲が浮かんだ」と返す。絵柄が浮かんできて、何とも不気味で滑稽で吹いてしまう。アンコール曲の『so long 』(さよならの意)は、子どもの頃、お母様に「ピアノの練習をしないなら家に帰ってこなくていい」と叱られた時につくった曲だという。(笑)
日常のシビアな風景もユーモアに変えてしまう術がある。いや結果的にユーモラスになるのかも知れない。千尋のパワーと素直さに惹かれる。
対決というより素敵な仲良しコンサートだった。お互いにリスペクトする友だち同士の軽妙でハイレベルな2台のピアノによるデュオを楽しんだ。
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