キンコンカンコーン 一時間目の授業
Q.方位磁針のN極がさした方が北、そんなの当たり前。では「なぜ?」
A.地球は大きな磁石で北極がS極、南極がN極になっているから
ハイ よくできました(パチパチ)
Q. 「なぜそうなっているの?」
A.地球の内部にあるどろどろに溶けた鉄の塊が自転などの影響で渦をつくり回転していて、そこに磁場が少しでもあれば鉄の中に電流が流れ巨大な〈電磁石〉になるのだ。そう中学でやった《電磁誘導》ってこと。
この地球の極(地磁気)が反対になることがある。つまり方位磁針のN極が南を指し、S極が北を向くという地磁気逆転が地球上のあらゆる場所で同時に起こるのだ。過去600万年間で22回起こったことがわかっている。地磁気研究に貢献した科学者の名前を冠して、現在は《ブルン正磁極期》その前の約200万年間は《松山逆磁極期》といい、最後に起こった地磁気逆転は今から77万年前の《松山ーブルン逆転》と名付けられている。およそ2000年の時間をかけて逆転が完了した。
Q.「なんで逆転するの?」
A.この理由はまだ解明されていない (ザンネン)
キンコンカンコーン 二時間目の授業
Q.「先カンブリア代とか古生代、中生代、新生代って聞いたことがあると思うけど、これって何のこと? 江戸時代より前の時代のこと?(笑)」
A.これは地球の歴史(地質年代)を表す時代の名前の一つで、全部116の地質年代に細かく分類され(2021年12月時点)、年表(国際年代層序表)に表されている。この時代の境目の多くは、地層から掘り出される化石の種類が大きく変わる節目で分けることが多い。例えば中生代のジュラ紀の始まりはアンモナイトの出現がめやすにになったり、次に続く白亜紀の終わりはアンモナイトや恐竜の絶滅がめやすになっている。
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《チバニアン》とは地球46億年の歴史のうち、今から77万4000年前から12万9000年前の第四紀中期更新世の中の地質時代区分の名前である。77万4000年前に古期御嶽山が噴火した。深海に堆積した2cmほどの火山灰の層《白尾火山灰層》が地層中で識別しやすいことから時代区分の始まりとなった。そしてその約千年後に、この地球で地磁気の逆転という大事件が起こる、その境目の変化を科学的にみて世界一わかりやすい形で保存されているというお墨付きとして、2020年1月国際機関で正式に《チバニアン》として承認されたのだ。
国の天然記念物に指定されていた「養老川流域田淵の地磁気逆転地層」が「チバニアン」の名で世界相手にメジャーデビューしたのだ。はじめて日本の地名が地球の歴史に刻まれた瞬間であった。「チバニアン誕生」のニュースが日本中を駆けめぐる。茨城大学の岡田誠教授が代表の千葉セクションGSSP提案チームが6年半にわたり膨大な研究データや論文、提案書をつくり上げた努力をした結果、イタリアの2候補との競争を勝ち抜いたのだ。もともと日本と同じように火山の噴火や地殻変動が多く、地上に姿を現している地層や化石が豊富なイタリアは、地質時代の名前のほとんどを独占しているほどの強豪国(?)だった。
朝、千葉県市原市の田淵にあるビジターセンターに車を置き、長靴に履きかえて農作業の通路みたいな道を下り、養老川に降りていった。少し上流には養老渓谷がある。前日の夜、久しぶりに会った友人と飲んで二日酔い気味でグッタリしていたつれあいもようやく下界に降りる。(笑)ビジターセンターといってもプレハブの簡素なつくり、国の天然記念物であり今や世界の「チバニアン」のわりには天気がいいのに、人もほとんどいない。やはり地層見学は地味だ。ふつうの自然の崖や露頭があるだけで、特別な景勝地というわけではないから。
浅く平べったい川底がすぐ見える。上流とも下流ともいえない独特な景観である。77万年前のこのあたりは、500メートルの深い海の底で、粒子の細かい泥が静かに積もったのだ。水たまりのようなのっぺりとしたキツネ色の川底は泥岩層である。当時、房総半島自体真ん中を残して海だった。そして関東山地から運ばれた土砂がお椀の淵に堰き止められて堆積したのが上総層群である。それが長い年月を経て隆起したのがこのあたりの土地であり、そこを養老川の流れで削られて崖となったのが千葉セクションの地層なのだ。
春の清気の中、天然記念物を一人占めできるのは贅沢な気分になる。川底にはいろいろな模様がある。その中に生痕化石という呼ばれるものが簡単に確認できる。縞模様やマーカーペンの試し書きみたいな痕、引っ掻いた跡のような模様である。それは貝や深海の生物が海底を這いずったりしたものなのだ。川に立ち目を閉じてしばしそこが深い海の底であることを想像する。
ジャブジャブと川を横断して中央付近に立つと膝下くらいの深さで、流れも速くなる。もちろんジーパンは海パンに変わっている。ここから横の崖を見ると全体が目に入る。地層は下流の方へ左下がりに傾き、上部に白尾火山灰層が細くたなびく。77万4000年前の地層だ。その下が、カラブリアンという更新世前期の地層、そして上側が更新世中期の《チバニアン》の時代の地層なのだ。そして下から上へ、地球の磁極がゆっくりと逆転したのだ…、もう泣けてくるではないか。(笑)
ふと気づくと、いつのまにか高校生風の男子二人が来ていた。水をかけ合ってじゃれていたが、僕には、彼らが深海で戯れる生物でやがて生痕化石になるだろうと思った。笑
菜の花の中を走る〈いすみ鉄道〉を見て、お昼は大多喜の「きよえ」で旬の筍料理を食べる。なかなか食べれない刺身もとても美味しく頂いた。粘土質で育った筍は白く灰汁もほとんどないということで、土のお陰で大多喜の上質の筍が育つ。
上総層群よ 美味しい恵みをありがとう
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