やさしさの行方

 美輪明宏が何かの人生相談の番組で、今の彼氏との結婚を迷っている若い女性に、伴侶として一番大事なのは相手の「やさしさ」と「品」だとアドバイスしていた。「四十過ぎればいい男も何も見てくれはもういっしょ」と付け添えていた。四十代はまだ早い気がするが()

 三島由紀夫氏など名だたる文化人との交流の中で感性と理性を磨き、演劇人としてそしてシャンソンの歌い手としていつも凛とした表現者であり続ける。穏やかな観音様のような表情の一方で歯に絹着せぬ舌鋒鋭く切れ込む。性別や年齢を超越した姿がごく自然な、素敵な人だ。

「やさしさ」って?

 思わず唸るほどの的を射る回答を期待していたのに……、ヒラリかわされた気分だ。人は歳を重ねると往々にして、言うことが抽象的、包括的、主観的になるようだ()

 世の中にはやさしいヒモもいるし、涙ひとつ流さないで人を殺す革命家もいる。「やさしさ」が曖昧模糊であれば「誠実さ」と言い変えてみよう。

 じゃあ「誠実」ってなんだよ?

 誰かが言った。『誠実とは誠実であろうとすることである』と

 そういえば美輪明宏とほとんど同い年の義理の母も、娘(今の嫁)が結婚するとき「やさしい人なの?」とだけ聞いたという。

 どうやら、「やさしさ」にはしっかりしたコアがあるようだ。でもそれは目に見えず、語ることが難しいようだ。

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