インターネットがいろん
  ー夏休みの自由研究のこと(1999.11)

今年の夏、中2の塾生が学校で課された理科の自由研究をすこしばかりサポートすることになりました。主題は「環境(問題)について」と幅広いのですが、その中にいくつかの小テーマが設定されていて、2人で話し合った末、[野生生物の減少や絶滅から環境問題を考察する]という細目を選ぶことに決めました。そして、身近で、興味が持てそうで、資料や文献もきっと豊富な「蛍」を対象とすることにしました。彼女の家の近くにおばあちゃんが住んでおられるということで、おばあちゃんに、昔のこの辺りや練馬のどこかで蛍がいたかどうかという聞き取り調査をし、もし昔は蛍がいたのに今はいなくなっている場合は、その地域の環境がどう変化したかという調査をする(区役所等で)。また、彼女が夏休みにどこか遠出をする予定があるというので、行った先での実地調査、はたまた図書館で本を借りて、蛍についてのさまざまな生態を調べることなど、二人で立てた予定を実行するのに、彼女は、部活や講習で多忙な時間をぬって奮闘していました。私は、逐一彼女の調査報告や話を聞いて、それらの資料をどうまとめていけばいいか、そしてどういう方向性で次の段階に進めばよいかといったアドバイスをしていきました。

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 そして、あとの私の役割といえば、専らインターネットでの情報集めでした。塾と自宅のコンピュータ(自宅はMac, 塾はWindows)で、ネットスケープナビゲーターやインターネットエクスプローラー(インターネットでホームページを閲覧するソフト)を起動し、まず「YAHOO」や「goo」(インターネットの入り口でどこのホームページに行けばよいかを調べるための検索ページ)で「hotaru」と入力して、・・・(数秒)・・・すると、何千件(!)もの蛍関連のホームページリストが目の前に現れます。日本全国津々浦々(世界中のあらゆるホームページにリンクできます)、個人から大学や行政機関に至るまで、村ぐるみで蛍を呼び戻す活動をしている報告や、専門的な蛍の生態研究に至るまで、種々雑多ではありますが、あふれるほどの情報のリストを目にすることができるのです。そして、そこかしこのホームページを覗いてまわり(ネットサーフィンといいます)、「あ!これだ。」という情報に出会うとダウンロード(ネット上から使っているコンピュータのハードディスクにデータをコピーすること)し、印刷(プリント・アウト)した上で彼女に渡すのです。(文字情報はもちろん、きれいな画像や音声も再現することができるのです。)

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 今年、話題になった本があります。和歌山の毒入りカレー事件を題材にした『四人はなぜ死んだのか』(文芸春秋)です。聞くところによると、著者の当時中学3年生の三好万季さんが、インターネットを駆使して事件の真相を調べ上げ、「この事件の初動の段階で中毒についての正確な専門知識を得さえすれば、4人の被害者の方が亡くならなかったはずだ」と実証しているものです。一個人がある分野についてコンピュータ一台だけで、あらゆる専門家になれる、そんな媒体がこのインターネットなわけです。たしかに人間と人間の関係や知のあり方を全く変えていく可能性をもっているものです。しかし、果たしてインターネットは万能なのでしょうか。

 バーチャル・リアリティということばがあります。日本語では仮想現実といいます。インターネットのたくさんの情報で知識は確実に増えるのでしょうが、そうであればあるほど実際に蛍の光を見て、きれいだなと感じた気持ちや、捕って遊んで手にしたというリアリティが重要になるはずです。

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 私は、この自由研究を通じて、情報を得る方法(フィールドワークと文献調査)、情報の取捨選択のしかた、論文のまとめ方をアドバイスすることで、図らずして、授業での知識の伝達という関わり方以外に何かを彼女に伝えることができたと思っています。(本人は「あ~便利だったなぁ」くらいかも知れませんが)でも、それなりに労力がかかることです。それは、教育の根本的なものであるからです。何をどう調べて、そしてそれをどう活用し、それが何の意味をもつのかを教えることは、問題の解き方を1000問教えるよりもずっと大変なことだと思います。そして大変だから、この部分が家庭教育でも学校でも一番欠如しやすいところではないのでしょうか。

 塾生のみんなも何か調べたいなというものがあれば言って下さい。お手伝いしますよ(私でなくインターネット君が)。

(MJ通信  雑感  1999.11 )

 

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