《 バンドネオン》奏者の川波幸恵さんの演奏会(Live)がありました。川波さんは2015年アメリカで開催された第1回バンドネオンコンテスト”che Bandoneon competion”で優勝した演奏家です。彼女は高校時代にこの楽器の音色の虜になり、何としてもこれを演奏したい情熱に駆られ、親を欺く隠れみのに東京の音大のピアノ科に進学したほどです。
このバンドネオンは、ドイツのハインリッヒ・バンドが考案した楽器で、教会のパイプオルガンの音色を簡便 に再現できる楽器として誕生したようです 。19世紀後半、ヨーロッパから移民たちが船で南米アルゼンチンに渡る際に輸出され、それまでギター、フルートそしてバイオリン中心 のアルゼンチンタンゴを演奏する楽器の主役として一斉を風靡するようになります。歯切れの良いリズムを刻み、情感溢れる音色を奏でる楽器です。(タイトル写真は実際演奏に使った楽器です。)
川波さんの演奏に合わせて、ミュージカルや演劇で活躍する中村つむぎさん、舞踏家の桑原和美さんが、タンゴだけでなくジャンルを超えた楽曲に合わせてパフォーマンスを披露し、川波さんの人柄を反映した小さいながらもおおらかで陽気なライブを堪能することができました。川波さんも例外にもれず、バンドネオンの演奏家は「あ〜今日の演奏は良かった。素晴らしいアコーディオンでした」(笑)と言われるのがかなり嫌らしい。(ということは、よく間違えられるというわけです。もっとも、アコーディオンの方が圧倒的に知られているからやむを得ませんが)
バンドネオンとアコーディオン‥‥、同じ蛇腹楽器で、金属のリードを空気で振動させて音を出すことには変わりありません。2つのハーモニカを蛇腹でつないでいるようなものでしょうか。しかし、楽器の大きさや形状、材質、リードの数、演奏の仕方などでそれぞれの楽器の音色が変わるのです。
今、アルゼンチンタンゴを語るとき、ピアソラ(1921〜1992)の存在は欠かすことができません。もともと1880年代にブエノスアイレスのはずれの貧民街で、伝統的な踊りと、アルゼンチンに連れて来られた奴隷のリズムの融合によって生まれたと言われる貧民の音楽タンゴは、やがて上流階級も含めて国民的音楽に昇華され、成熟します。成熟は保守を意味するものです。その堅固な保守の牙城を破ろうとした新風こそアストロ・ピアソラです。「タンゴの破壊者」といわれ酷評される一方で、タンゴの音楽的可能性を広げ、ドメスティックな音楽から世界的に、そし現代的にと舵を切ったのがピアソラです。1970年代、彼はジャズやロックを取り入れた新しいリズムの「リベルタンゴ」を作曲します。ダンスのための伴奏音楽から解放し、音楽そのものを主役とした《聴くためのタンゴ》が完成します。もちろんこれは《踊れないタンゴ》でもあるわけです。「リベルテ」(自由)と「タンゴ」を組み合わせた造語の曲名ピアソラはこの曲について「自由への賛歌のようなものだ‥」と語っています。1870年代、フランス絵画の潮流の中で、サロンから既成の概念や価値を破る「印象派」が誕生したように、一人の革命の風雲児によって、伝統音楽「タンゴ」に新しい価値が生まれたのでした。
冒頭の川波幸恵さんの師匠であるバンドネオン奏者 小松亮太with葉加瀬太郎(vi)そしてアコーディオン奏者のcobawith寺井尚子(◯with△をあえてこうしてあります 笑)の動画を紹介します。こうなると、もうインプロヴィゼーションとインタープレイの極致、心に残る名演奏です。バンドネオンとアコーディオン お間違えなく。
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