ドキュメンタリー映画であるが、見終わった後、会場全体から拍手が湧き出た。それは立ち上がって「ブラボー」という派手な賛美ではなく、このアーティストである一人の女性に対する静かな敬意というのに近い。一途な求道者であり、一人の誠実な女性だ。格別な充実感に酔える作品だった。
公開初日の第一回。映画に続き、日本のカウンターオーレの第一人者である石塚隆充さん のギターと歌 そしてトークショーが催された。張りのある祈りに似た魅力的な音は、耳について離れない。フラメンコという伝統舞踊に、革命的な新風を巻き起こしたこのダンサーがどんなに前衛的であろうかと想像していた彼は、映画を見終わった後で、彼女があまりにも正統派で、彼女の舞踏や生き方が、旧き良き時代を彷彿させるものであることを「意外であった」と言う。
直木賞作家でフラメンコに造詣の深い逢坂剛氏もこう言う。「サラは今や単なる踊り子ではなく フラメンコそのものである。」
サラ・バデスは17歳でプロのフラメンコダンサーを決意し、30年以上にわたり、伝統に基づきながらも自分の自由な表現を追求し続けた結果、フラメンコ界の異端児とみなされる一方で最高のフラメンコダンサーとして、フラメンコ界を牽引する。高い技術はもちろん、既成の枠にとどまらない表現が天才といわれる所以である。
この映画は、2014年〜15年、サラバデスの世界6ヶ所で行われた世界ツアー「ボセス フラメンコ組曲」を映像で追う中で、人間そして女性である等身大のサラバデスを浮き彫りする。アンダルシア地方の民族舞踊フラメンコを世界の芸術へと進化、飛翔させた6人のマエストロに敬意を表し、踊ることでオマージュを捧げる。(名前の後《》内は舞踏のテーマとなる。)
パコデルシア 《努力》
カルメンアマジャ 《反骨》
エンリケモレンテ 《決意》
アントニオガデス《向上》
カマロン・デ・ラ・イスタ 《自由》
モライート 《喜び》
いずれも、殻を破ったフラメンコ界の革命児たちである。
彼女は言う。「アーティストだけが特別じゃあない。清掃の仕事もタクシーの運転手も皆 が特別なの。誰もが世界を良くする責任を負っているし、表現法はどうであれ、誰でも成し遂げる力を持っているわ。あとは挑戦するかどうかよ。」ほんの偶然のきっかけから、ダンサーを選択し、様々なアーティストから影響を受け、触発され、一生の仕事とする。でも仕事が、パフォーマンスが彼女の全てではない、カメラは、出産を経て、子育てをする一人の女性、夫と子供のことでツアーが終わって、故郷に帰って家族と無邪気にハグし合う彼女を映す。その自然体な人柄は観ている者を惹きつける。《嘘》が微塵も感じられないからだろう。
パッション・フラメンコ 2016年 スペイン 監督ラファ・モレス、ぺぺ・アンドレウbunkamuraル・シネマにて 2017年8月
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